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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和49年(ネ)8号 判決

控訴人 池田太一

右訴訟代理人弁護士 安東五石

被控訴人 川崎重工建機販売株式会社

右訴訟代理人弁護士 木村一八郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、原判決別紙目録記載の物件を引渡し、かつ、金一八九万円及びこれに対する昭和四八年五月二九日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠関係は、控訴代理人において、「本件物件は、建設機械であって、自動車運送車両法にいう『自動車』にはあたらないから、登録を必要とするものではなく、また、その所有権を移転するにつき、譲渡証明書の交付を伴なうものでもない。したがって、控訴人が、右物件を買い受けるに際し、譲渡証明書によって、その所有権の帰属を確認しなかったとしても、控訴人に過失はない。」と述べ、当審における控訴人本人尋問の結果を援用したほかは、原判決の事実摘示と同一である(ただし、原判決三枚目表八行目冒頭に「原告が」とあるのは、「原告は、」の誤記と認めて、そのように訂正する。)から、これを引用する。

理由

一、控訴人は、本件物件を、所有者である訴外有限会社日豊石材工業(以下「訴外会社」という)から買い受けて、その所有権を取得した旨主張する。そして、〈証拠〉によると、控訴人が、昭和四七年五月一一日ころ、訴外会社との間で、本件物件を代金二五〇万円で買い受ける契約を締結し、そのころ、訴外会社から本件物件の引渡しを受けた事実が認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。しかし、右契約当時、本件物件が、訴外会社の所有であったとの控訴人の主張事実については、これを認めるに足りる証拠はない。かえって、〈証拠〉によると、本件物件は、被控訴人の所有であったところ、昭和四七年二月二五日、被控訴人と訴外会社との間で、本件物件につき、代金三七八万六、六五〇円、支払方法二〇回の割賦払、本件物件の所有権は右割賦金完済の時まで被控訴人に留保し、それまでの間は、被控訴人において訴外会社に無償でこれを貸与する旨の割賦売買並びに使用貸借契約が締結され、右契約に基づき、そのころ、訴外会社に引き渡されたものであること、ところが、訴外会社は右割賦金を四回位支払っただけで、右代金を完済していないことが認められ、右認定事実によると、控訴人主張の売買契約当時、本件物件の所有権は、なお被控訴人に属していたことが明らかである。

したがって、控訴人の右主張は理由がない。

二、そこで、控訴人の即時取得の主張について判断する。

1. 前記一認定の事実に〈証拠〉を総合すると、本件物件は、自動車運送車両法所定の自動車登録フアイルに登録を受けることのできる自動車であるが、控訴人が訴外会社との間に前記売買契約を締結した当時、いまだ右登録がなされていなかったこと、右売買契約当時、本件物件は、前記のとおり被控訴人の所有であったが、訴外会社がこれを占有しており、控訴人は、本件物件を訴外会社の所有であると信じて右契約を締結し、その引渡しを受けたことが認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

2. ところで、被控訴人は、本件物件が訴外会社の所有であると信じたことについて控訴人に過失があった旨主張する。そして、前記一認定の事実に〈証拠〉を総合すると、控訴人は、土木工事を業とする訴外株式会社城東建設の代表取締役として、建設業に従事していたものであり、控訴人が前記のとおり本件物件につき売買契約を締結した訴外会社は、昭和四六年一二月ころに設立された砂利採取、採石等を業とする会社であるが、昭和四七年六月ころには倒産し、その代表取締役杉本信尚も行方不明となったこと、控訴人と訴外会社間の右売買契約は、前記のとおり、同年五月一一日ころ締結されたが、それまでに控訴人と訴外会社との間に、本件物件のような建設機械につき売買等の取引がなされたことはなかったこと、控訴人は、訴外会社から本件物件を買い受けるに際し、前記代表取締役杉本信尚が、本件物件の代金は支払済みである旨述べた言葉を信用してこれを買い受けたものであって、それ以上に、本件物件が訴外会社の所有に属することを確かめる措置をとらなかったこと、本件物件は、新品ではなかったが、本件物件のような建設機械は、中古品の場合を含めて、その代金が比較的高額であるところから、所有権留保付の、二〇ないし三〇回の割賦払契約によるのが当時の取引の常態であり、したがって、これらの物件を使用、占有している者であっても、いまだその所有権を取得していない場合も少なくないと考えられたこと、また、これらの物件については、メーカー間の協定により、その所有関係を明らかにするなどの目的から、割賦金が完済され、その所有権が買主に移転したときには、販売業者が買主に譲渡証明書を交付する取扱いがなされており、前記のとおり建設業に従事する控訴人としては、これら取引の実情に通じていたことがそれぞれ認められ、原審における控訴人本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用できず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

以上認定の事実から考えると、控訴人が訴外会社から本件物件を買い受けるにあたっては、訴外会社が本件物件につき所有権を有しているか否かにつき一応疑問をいだき、訴外会社に対し、本件物件を取得した経緯、代金が完済されているるどうかなどの点について、右の譲渡証明書や、売買契約書、領収証その他の関係書類の呈示を求め、或いは、訴外会社の買受先に対して代金支払の有無を確認するなどの方法により、適宜調査をなすべきであり、しかもこれらの調査は容易になしうるものであるから、控訴人には、右の調査をなすべき注意義務があったものというべきところ、控訴人は、前記のとおり、訴外会社の代表取締役杉本信尚の、代金は既に支払ずみである旨の言葉のみを信用して、他に本件物件の所有権の帰属につき何ら調査、確認の方法をとることなく、漫然と訴外会社が本件物件を所有しているものと信じて売買契約を締結し、本件物件の占有を取得したものであるから、この点において右の注意義務違反すなわち過失があったものというべきである。

3. したがって、控訴人の即時取得の主張も理由がない。

三、そうすると、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、理由がないから、これを棄却すべく、これと同趣旨の原判決は、相当であって、本件控訴は、理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第八九条にしたがい、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 桑原宗朝 裁判官 松信尚章 川端敬治)

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